抄録
近年行われた海洋への鉄散布実験の結果、北部北太平洋域の東西両海域において、鉄は一次生産の制限要因として重要であることが明らかになった。鉄の供給源については、下層からの鉛直的な供給と春先の黄砂の飛来によって大気を通してもたらさせる鉄フラックスの寄与が大きいと考えられているが、その寄与率について定量的な議論が十分なされていない。本研究では、アラスカの山岳氷河アイスコアから大気由来鉄の沈着量の経年変化を推定し、雪氷試料を用いた実験から黄砂から降水中に溶解する鉄量を求め、大気中の黄砂が海洋に湿性沈着したときに短期間で海洋環境に与えるインパクトを評価した。その結果、アイスコアから推定した鉄の年間沈着量は1993から2003年の平均で9.3 mg/m2 yrだった。アイスコアおよび札幌の積雪中に含まれる鉄の溶解度はそれぞれ10%,1.2%だった。