抄録
降雪粒子は、雪を降らせる気象条件や雲中および雲底下でのエアロゾルの存在によって、多様な化学的性質を示す。それらの降雪時の化学的性質は、積雪となってからも、ザラメ化の過程を経なければ、そのまま保存される。つまり、冬型の気圧配置時に降ることが多い海塩起源物質濃度の高い降雪や、南岸低気圧時に降ることが多い人為起源の酸性物質濃度の高い降雪などが、そのままの濃度・組成で積雪層を形成維持する。そのために、積雪中における化学物質濃度の鉛直分布は、化学物質ごとに異なる様相を呈する。しかしながら、積雪粒子がザラメ化すると、その時には積雪粒子で化学物質の析出が進む。ザラメ化した層に積雪表面から融雪水が流下すると、融雪水が積雪粒子表面に析出した化学物質を選択的に溶かし込むために、融雪水中の化学物質濃度は高くなる。特に、融雪初期の融雪水は極めて高濃度となり、さらにはpHの低い酸性の融雪水となる。一方、融雪の進行とともに、積雪層中の化学物質濃度は次第に減少していくこととなる。ここでは、北アルプス乗鞍岳の東側に位置する乗鞍高原のふたつの標高地点において、積雪全層を数日間隔で採取分析することにより、大気から積雪への沈着量や融雪過程に及ぼす標高の影響を検討した。