抄録
南極氷床や氷河の流動は氷Ih相の塑性変形によって支配されている。これまで氷の流動則は低温ガス圧変形装置を用いて、歪み速度と応力の関係を直接調べることで研究されてきた(cf. Durham et al.1988)。しかしながら、ガス圧変形装置で実験できる応力の範囲は転位クリープが変形機構として卓越するような10~100MPaという高応力条件である。実際の氷河の流動応力(~0.2MPa, Paterson 1994)と比較すると大きな隔たりがある。それゆえ、実際の氷床と氷河の流動則を推測するには新たな実験方法で拡散クリープが卓越するような低-中応力下での氷の流動則を決定する必要がある。そこで本研究においては、低-中応力下での流動則を確立するのに必要な氷の体拡散係数および、粒界拡散係数を決定するために、同位体トレーサー(D2O, H218O)と顕微ラマン分光法を使った氷Ih相の拡散係数測定法を開発した。