抄録
水田土壌は湛水期には有機物分解により還元状態が発達しやすく,落水時には酸素侵入により酸化的状態に移行する。土壌中の酸素拡散は気相率に依存するため,水田土壌の酸化還元状態やAs・Cdの可溶化・不溶化も気相率の支配を受けると予想される。ここでは,水田圃場から土壌試料を採取し,溶存AsおよびCd濃度と気相率の関係を明らかにしようとした。溶存As濃度と気相率の関係には閾値気相率が存在し,溶存As濃度が高かったのは,気相率が0.03-0.10 m3 m-3未満の試料に限られた。一方,溶存Cd濃度は気相率との間に正の直線的関係があった。このことは,水田土壌中の溶存As濃度とCd濃度は必ずしも相補的関係になく,気相率がAs不溶化の閾値よりやや高い試料では,両者がともに低い傾向があった。これらの結果は,適切な水管理により気相率をAs不溶化の閾値よりやや高めに保てば,水田土壌中の溶存AsおよびCd濃度を同時に低レベルに抑えられることを示唆する。