抄録
タリウム(Tl)は殺鼠剤や農薬に使用されていた有害元素であり、非常に高い毒性を持つ。Tlは主に1価と3価の価数で存在しておりそれぞれ挙動が異なる。しかし環境中でのTlの分配挙動や存在状態については未解明な部分が多い。本研究では、水‐土壌系でのTlの化学形態を水側はHPLC-ICP-MS、土壌側はXAFSを用いて決定することで、環境中のTlの分配挙動の解明を目指した。高濃度のTlが存在する環境では水側土壌側ともに大部分が1価として存在していたが、低濃度(pptオーダー)では水側の3価の存在割合が多かった。これはTlの無機化学種のみを考慮した熱力学計算とは異なった結果であるが腐植物質等との有機錯体を生成する事でTl(III)が安定化していると考えられる。Tl溶液と有機配位子を共存させた場合1価から3価への酸化還元電位の低下が確認されたことから、Tlに対して有機物が過剰に存在する環境ではTlは有機錯体を生成し3価として存在していることが示唆された。