抄録
中部山岳国立公園の立山・浄土平(標高2839m)において、ハイマツ林冠の物質動態を測定した結果、針葉表面に付着した無機窒素成分の約70%を吸収していた。一方、多量の陽イオン成分が針葉表面から溶脱しており、針葉の濡れ時間とSO42-イオン供給に比例していた。ハイマツ林内雨の87Sr/86Srは、大気沈着や海塩の値と非常に近く、葉枝・リターでは、黄砂の値に近かった。美女平のスギ林(標高977m)、ブナ平のブナ林(1200m)、弥陀ヶ原のオオシラビソ林(1930m)では、スギ林とオオシラビソ林の林内雨と樹幹流の87Sr/86Srは、いずれも大気沈着の値に近かったが、ブナ林では黄砂の値とほぼ一致した。これらの結果は、立山ではいずれの森林地帯でも大気からのイオン供給が重要で、基岩の影響は小さいこと、また、黄砂が重要な陽イオン供給源になっている可能性を示した。