抄録
近年、黄砂と共に風送される微生物群(黄砂バイオエアロゾル)が及ぼす人健康への影響が懸念されている。しかし、黄砂による微生物の長距離輸送を直接実証した研究は殆どない。そこで、黄砂時の大気粒子から細菌株を分離培養し、細菌株の飛来源をMLST(遺伝子多型解析)を用いて推定した。黄砂発生地(敦煌)及び飛来地(珠洲,金沢,立山)において採取したエアロゾル試料を,高塩分の液体培地に接種し、全177の環境ストレス耐性細菌株を分離培養した。全株の16S rDNA塩基配列を決定し、系統分類学的に解析すると、64株がバチルス属に属し、バチルス サブチリスと近縁となった。更に、本種と近縁な細菌株を株レベルで比較する為、5種のハウスキーピング遺伝子配列を解析した。結果、バチルス サブチリス群の中で、敦煌大気と立山及び金沢の黄砂粒子から得た株が、一つのクラスターを形成し、本菌株の黄砂による越境輸送が示唆された。