抄録
中央構造線安康地域の断層帯の岩石および鹿塩・遠山・山室の冷湧水の微量元素・同位体分析を行った。地震時の断層すべり帯である黒色ガウジはLiに顕著に富み,高いSr同位体比を示すなど周囲とは異なる組成的特徴を示す。また,この地域の冷湧水は非常に高いLi/Na比で特徴づけられる。平均的な冷湧水組成を仮定してモデル計算を行うと,黒色ガウジの組成的特徴は最高250℃の流体との相互作用でよく説明される。このことは,地震時の断層すべりが高Li/Naの深部流体の存在下で起こり,摩擦熱で加熱された流体と断層岩の相互作用が生じたことを示している。