九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2022
セッションID: P-30
会議情報

ポスター5
出産後3ヶ月で頚椎椎間板ヘルニアを発症した患者の育児復帰を目指した一例 ~乳児の抱き抱え動作に着目~
濱崎 琴海西川 満樋口 敬典川上 慧
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【緒言】

育児期の女性にとって床からの乳児の抱き抱え動作は日常的に行われており、育児復帰を目指す上で必要不可欠な動作である。今回、頚椎椎間板ヘルニアにて深部感覚障害・痙性麻痺を呈した症例に対し、早期から床上動作訓練・動的バランス訓練を行い実用的な抱き抱え動作を獲得し育児復帰へ繋がった為報告する。

【症例】

30 歳代の女性で、四肢の痺れ・感覚低下から歩行困難となり当院に入院し頚椎椎間板ヘルニアと診断された。入院時の評価は、下肢Modified Ashworth Scale(右/ 左)0/1 ~2、MMT(右/ 左)腸腰筋2/3、中殿筋2/2、大殿筋3/3、前脛骨筋4/3、下腿三頭筋2+/2+、ロンベルグ試験陽性、歩行時はふらつきが強く痙性歩行であった。当院にて頚椎椎弓形成術・頚椎前方固定術を施行した。術後2 日よりリハビリテーションを再開、Berg Balance Scale(以下BBS)43 点であり動的バランスが不良である事から点滴棒歩行可能だが監視が必要な状態であった。術後3 日より乳児の抱き抱え動作獲得を目標に動的バランス訓練・床上動作訓練を開始した。内容はフリーハンドでの後ろ歩き・クロスステップ・段差昇降・方向転換動作、プラットホーム上での膝立ちからの着座・膝立ち移動・床からの立ち上がり動作・立位からのしゃがみ動作の反復訓練を行った。

【結果】

退院時の評価は、四肢の痺れ消失、下肢Modified Ashworth Scale0/0、MMT 腸腰筋5/4 で、その他は5/5 に改善、術後20 日にはBBS56 点に改善、独歩屋外歩行自立、階段自立し、乳児を想定した人形を抱えながら安全・効率的な床上動作を獲得する事で育児動作自立となった。退院前には家族指導を行い術後22 日に自宅退院となった。

【考察】

乳児の抱き抱え動作において必要となるのがしゃがみ動作と立ち上がり動作である。一連の動作において身体の前方への重心移動、前脛骨筋の筋活動が上昇するとされ、立ち上がり動作においては腓骨筋の筋活動も上昇したとされている。理学療法評価より、股関節周囲筋・前脛骨筋・下腿三頭筋の筋出力低下による姿勢保持・身体の前方移動が困難であり、また深部感覚障害による手足の相対的な位置感覚低下から動作時の重心の変化を認識出来ない事、さらには痙性麻痺による姿勢調節・協調的な動作が困難となり動的バランス能力が低下し抱き抱え動作が困難になっていると考えた。プログラムとして筋力低下に対し、ベッド上での自重訓練から開始し最終的には重錘を使用した立位訓練へ移行した。感覚障害に対して適度な感覚刺激を繰り返し入力し感覚機能を賦活化する事や視覚や聴覚などの他の感覚によるフィードバックを利用し動作の再学習が必要であるとされている。本症例に対しても姿勢鏡を使用し視覚からのフィードバックを適宜行いながら座位・立位での複雑な運動・応用動作を反復・学習させ、正常運動・動作を通して体性感覚のフィードバックを行った。痙性麻痺に対して、早期の段階からエルゴメーター訓練、DYJOC 訓練を反復して実施する事で、筋緊張が改善し姿勢変化に対する姿勢の調節が可能となった。結果、下肢筋力が向上し深部感覚障害・痙性麻痺が改善した事で動的バランスが向上し、体重移動の連続動作や新たな支持基底面を形成した重心移動が可能となり、安全で効率的な抱き抱え動作の獲得に繋がったと考える。

【倫理的配慮、説明と同意】

ヘルシンキ宣言に基づき、本人に本発表の趣旨および個人情報の保護について説明し、同意を得た。

著者関連情報
© 2022 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
前の記事 次の記事
feedback
Top