抄録
現世と過去の海底熱水性硫化鉱物の銅同位体比の特徴を明らかにする目的で南部マリアナトラフの背弧拡大軸上(Yamanakaサイト)および拡大軸から離れた海丘頂部に位置(Pikaサイト)する海底熱水活動域から採集した試料と、三波川帯の2つの別子型鉱床から得られた試料中の黄銅鉱の銅同位体比をfs-LA-MC-ICP-MSにより分析した。Pikaサイトのチムニー中の黄銅鉱の銅同位体比はδ65Cu= -0.7-+0.8‰であり、Yamanakaサイトのチムニー中の黄銅鉱は4‰を超える変動幅を示し(Ikehata et al., 2012)、最大値は+4.2‰である。これらの同位体比の変動は、初生黄銅鉱からの銅の溶脱と再沈殿時の同位体分別や、低温で形成された銅二次鉱物起源の銅の混入など複数の過程で生じたと考えられる。2つの別子型鉱床の黄銅鉱の銅同位体比は0.5‰以下の狭い変動幅を示し、形成後の続成作用や広域変成作用時の再結晶作用により、初期の同位体変動幅は減少したことを示唆する。