抄録
2010年に南部マリアナ前弧の海溝に続く水深約5600 mの斜面にシロウリガイを主とする化学合成生物群集が発見され、その一帯はShinkai Seep Field (SSF)と名付けられた。SSFは、これまでに化学合成生物群集が知られている熱水噴出孔やメタン湧出域と全く異なるテクトニックな背景を持っており、マントルかんらん岩の蛇紋岩化反応に伴って発生する水素やメタンによって微生物硫酸還元が行われ、そこで発生する硫化水素を利用して硫黄酸化細菌が一次生産を行っていると考えられている。しかし、実際にこの群集を支えているエネルギー源に関する地球化学環境の解明は行われていない。よって、本研究ではSSFのシロウリガイ群集を支える化学エネルギーの起源を、安定同位体地球化学的手法を用いて検討した結果を報告する。