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過去60年間で大気エアロゾル組成は激変している。21世紀になってからは,SOxとNOxの排出規制にともない,アンモニウム塩の形成が妨げられ,北半球農業地域の大気アンモニア濃度が上昇している。本研究では,南東グリーンランドSE-Domeのアイスコア試料中に含まれるエアロゾルの化学形態に着目し、ラマン分光分析を行なうことでアイスコア中の塩微粒子の化学組成を同定した。春の試料に比べて夏の試料で(NH4)2SO4が多く,CaSO4とNaNO3が少なかった。夏季におけるアンモニウムイオン濃度の増加が関係していると推測される。また,1968年,2000年,2008年の春試料で組成を比較した結果,1968年試料では(NH4)2SO4が検出されたのに対して,2008年と2000年試料では硫酸塩に比べて硝酸塩の割合が大きく, (NH4)2SO4が検出されなかった。これは,北米農業地域などのエアロゾルの供給源において,21世紀以降に(NH4)2SO4が形成されづらかったことが原因であると考えられる。