日本地球化学会と日本温泉科学会の最初の共催のための基調講演で,温泉の地球化学的研究の歴史,火山性温泉,非火山性温泉,大深度温泉とこれらの泉質の特徴を述べる.非火山性温泉にはラジウムやラドンを含む放射能泉もある.δダイアグラムより温泉水は,地下水が地質学的要因により加熱されたものか,あるいは火山ガスや海水,化石海水や超臨界水の影響を受けたマグマ水などの混入によると考えられる.地下深部の流体は超臨界状態になっていると考えられる.熱水環境や源泉は,太古の地球環境に類似していると考えられ,生命の起源や進化と関連して興味がもたれる.全球凍結時(730-700 Ma, 665-635 Ma)には熱水環境や温泉が,光合成生物などの生命生存の継承の場となっていたであろう.今後の課題としては,黒湯を含む様々な温泉環境におけるバイオマーカーの分子レベル同位体比などの有機地球化学的研究が望まれる.