Mo, Wは共に6族の元素であり、化学的な性質は近いが海洋や河川のような水圏環境におけるふるまいは異なる。近年、安定同位体比の測定技術の進歩により、遷移金属のような重元素の安定同位体比を測定することが可能になった。Mo, Wの濃度および安定同位体比は熱水や人為起源物質のトレーサーとして期待できるが、Wの安定同位体比のデータは少ない。そのため、本研究では海洋および河川でのMo, Wの濃度および安定同位体比の分布を調べる。これまでに観測を行ったのは太平洋、インド洋、日本海、東シナ海、大阪湾、淀川、宇治川である。これらの水試料中のMo, W濃度、δ98/95Moとδ186/184Wを測定した。外洋では、Moと同様にWの濃度および安定同位体比は均一であることがわかった。大阪湾および淀川ではW濃度および安定同位体比に有意な変化が見られ、また日本海や東シナ海でもWの濃度および安定同位体比は異なっており、人為起源のWの影響が考えられた。