主催: 日本地球化学会年会要旨集
会議名: 2023年度日本地球化学会第70回年会講演要旨集
回次: 70
開催日: 2023/09/14 - 2023/09/24
p. 116-
筆者らは、これまで、宇宙線との相互作用により惑星物質表面で生じる核反応がもたらす元素の同位体変動を定量的にとらえ、隕石や月試料等の宇宙線照射環境を考察することを試みてきた。Smの同位体である149SmやGdの同位体である157Gdの中性子捕獲反応による同位体変動はその典型的な例である(例えばHidaka et al., 1999)。149Sm、157Gdともに熱中性子(E<0.1 eV)に対する捕獲反応断面積が著しく大きいため、宇宙線照射に伴って発生する熱中性子量を定量的に見積もるために用いられている。これに対し、近年、熱中性子とともに熱外中性子(0.1 eV<E<500 KeV)とも反応することが期待できる核種として、168Ybに着目している。原子番号70の元素であるYbには質量数168、170、171、172、173、174、176の7つの同位体が現存する。このうち、168Ybの中性子捕獲反応断面積は、0.5~200 eVの熱中性子エネルギー領域に大きな共鳴ピークをもつことから、熱外中性子との相互作用が同位体存在度に反映されると思われる。しかし、168Ybの中性子捕獲反応は、前出の149Smや157Gdのような中性子捕獲(同一元素内における同位体シフト)ではなく、反応生成物である169Tmが単核種元素のため中性子捕獲起源成分を定量的にとらえることは困難であり、同位体存在度の減少度のみで反応の程度を判断することになる(Hidaka et al., 2020)。また、168Ybの同位体存在度は、元来、0.13%と非常に低いことから、中性子捕獲反応による同位体存在度の減少を正確にとらえるには高精度同位体測定が要求される。科博理工学部所有のTRITON Plusにおいて、従来の手法である10^11 Ω抵抗搭載の増幅回路を用いたファラデーカップで測定した結果、168Ybの同位体減少度に基づいて見積もられる中性子フルエンスの検出限界は~5✕10^17 cm-2に相当する(Hidaka et al., 2020)。本法は、宇宙線照射年代の長い月表層試料などにはある程度適用可能であるが、各種隕石に広く応用させるには現状では困難である。これに対し、Ybの7つの同位体のうち、同位体存在度の低い168Ybおよび170Ybの2つについては10^13 Ω抵抗搭載の増幅回路を、残りの5つの同位体については10^11Ω抵抗を併用することによる高精度化を図っている。本手法と従来法とを単純に標準試料を用いた測定精度のみで比較すると168Ybの同位体存在度に関しては、約10倍の高精度化が実現できている。