北極海は、地球温暖化や海洋酸性化について全球で最も深刻な状況にある。このように劇的に変化する環境下で、生物生産や物質循環は如何に応答し変化してきているのか?それを明らかにするために、西部北極海ノースウインド深海平原にて2010年よりセジメントトラップ係留系やpH/pCO2等の各種センサーを設置し、時系列に生物起源粒子の捕集やデータの取得を行ない、既存研究と比較しながら現場で生じている生物地球化学過程の変化について記述してきた。また、これまではローカルな生物地球化学過程として考えられてきた窒素固定が、硝酸塩やアンモニアなどがしっかり存在する極域海洋でも起きている過程であることも明らかにしてきた。さらに、今年度から、東南極南大洋の生物地球化学研究に挑戦する機会を得た。ソニーが開発したイベントベースビジョンセンサー(EVS)を用い、これまで未測定のサイズの粒子を捉え、セジメントトラップ観測によって補修される巨大粒子の結果と併せて海洋生物由来の粒子全体量の推定に挑戦しようと計画している。本講演では、以上述べてきた生物地球化学過程に関わる北極海での研究成果を紹介するとともに、30年ぶりに機会を得た南大洋観測を通じた新しい挑戦的研究について紹介する。