日本地球化学会年会要旨集
2023年度日本地球化学会第70回年会講演要旨集
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G4 初期地球から現在までの生命圏の地球化学
初期地球における酸素発生型光合成生物の活動が引き起こす生物地球化学的変遷と気候進化
*渡辺 泰士田近 英一尾崎 和海
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p. 69-

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抄録

酸素発生型光合成生物は太古代後期(30-25億年前)ごろには登場していたと考えられている。酸素は強力な酸化剤であるため、酸素発生型光合成生物の登場や活動の増大に伴う酸素生成速度の上昇は、たとえ微量であっても大気海洋系の酸化還元状態や当時の嫌気的な生物活動に影響を及ぼすと思われる。実際に、その後の原生代初期の約25-22億年前には大酸化イベントとよばれる大気酸素分圧の急激な上昇が引き起こされたことが知られている(e.g. Lyons et al., 2014)。さらに、大酸化イベントが発生した時期には全球凍結イベントが発生したと考えられており、両者の関係性が長らく議論されている。しかし、これまでは酸素発生型光合成生物の登場後の生態系相互作用や大気化学反応-生態系相互作用を取り扱うことができる理論的な枠組みがなく、酸素発生型光合成生物の登場やその活動の増大が原始的な海洋微生物生態系の活動や大気組成の進化、当時の気候変化に及ぼした影響は包括的には理解されていなかった。そこで、本研究では酸素発生型光合成生物の登場後の太古代-原生代初期に適応可能な鉛直一次元大気光化学-海洋微生物生態系結合モデルを開発することで、酸素発生型光合成生物の活動によって駆動される大気光化学反応系と海洋生命圏の相互作用を調べた。その結果として、酸素発生型光合成生物の基礎生産速度が十分に上昇すると、原始的な海洋微生物生態系が要求する電子供与体(水素および一酸化炭素)の大気中での生成速度が低下し、その結果として嫌気性微生物生態系の活動が抑制されることが明らかになった。さらに、酸素発生型光合成生物の基礎生産速度が大きい場合ほど大気へと供給される酸素/メタンフラックス比が上昇し、大気中のメタン混合比を低下させることで気候寒冷化を引き起こすことが明らかになった。大気中のメタン混合比は珪酸塩風化による気候調節作用がはたらく時間スケールよりも速く減少すると考えられるため、大気のCO2混合比が現在値の約40倍程度よりも小さい場合には、酸素発生型光合成生物の活動に伴うメタン混合比の低下によって全球凍結イベントが引き起こされる可能性が示唆された。加えて、今回行った典型的な数値実験の結果では、酸素発生型光合成生物の基礎生産速度が現在海洋における値の約5%を超えると大酸化イベントが引き起こされることが示された。これらの結果は、太古代に酸素発生型光合成物が出現した後にも無酸素的な状態が続き、酸素発生型光合成生物の活動の上昇によって原生代初期の全球凍結イベントと大酸化イベントが発生したという仮説を支持するものである。

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