日本地球化学会年会要旨集
2023年度日本地球化学会第70回年会講演要旨集
会議情報

G4 初期地球から現在までの生命圏の地球化学
先カンブリア時代の大規模火成活動が引き起こす地球表層環境変動
*渡辺 泰士尾崎 和海原田 真理子松本 廣直田近 英一
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 88-

詳細
抄録

先カンブリア時代の大気酸素分圧(pO2)は現在より低く、太古代(40〜25億年前)は現在の0.0001%以下の貧酸素状態であったと考えられている(e.g. Lyons et al., 2014)。その後の原生代(25〜約5.4億年前)初期には大酸化イベントが発生し、pO2は現在の約0.01-10%程度の弱好気的状態まで上昇したと考えられている。その一方で、貧酸素状態の太古代後期においてはpO2が一時的に上昇するイベントが発生していたことが示唆されている(e.g., Anbar et al., 2007)。また、弱好気的状態の原生代にはpO2が一時的に低下するイベントが発生した可能性が議論されている(e.g., Rasmussen et al., 2012; Uveges et al., 2023)。地球上でこのような短期的な擾乱を引き起こしうる普遍的な要因として、巨大火成岩岩石区(LIP)の形成に伴う大規模火成活動が挙げられる。LIPの噴出に伴い二酸化炭素が大気へと一時的に多量に供給されるため、富酸素的条件の顕生代(約5.4億年前〜現在)における大規模なLIPの噴出は全球的な温暖化を引き起こし、大陸風化に伴う河川からの栄養塩の供給を促進し、海洋中の基礎生産速度の上昇と海洋の無酸素化を引き起こしたことが知られている。しかしながら、pO2が現在とは大きく異なる先カンブリア時代におけるLIPの噴出に伴う生物地球化学循環系や大気組成の応答はこれまで不明であった。そこで、本研究では先カンブリア時代の地球表層圏における物質循環を考慮できる理論モデルを用いて、太古代および原生代におけるLIPの噴出に対する生物地球化学的循環の応答を系統的に調べた。その結果、太古代におけるLIPの噴出に伴う河川からの栄養塩の供給速度の上昇によって、原生代のような弱好気的条件まで大気酸素濃度が上昇する可能性があることが明らかになった。一方、原生代の場合には、河川から供給される栄養塩が海洋に十分に蓄積する前に火山活動に伴う還元的ガスが大気へと十分に供給される場合には、pO2が急激に低下することが明らかになった。しかし、この場合はLIPの主要な噴出期間が終了すると、河川からの栄養塩の供給速度の上昇によって、太古代の場合の変動と比べ短期間でもとのpO2まで回復することが明らかになった。また、この急激な貧酸素化が発生した時期には海洋表層水からの鉄酸化物の生成速度が一時的に上昇することが明らかになった。この結果は、LIPの噴出によって約19億年前の縞状鉄鉱層の形成速度の一時的な上昇が引き起こされたとする仮説(e.g., Isley and Abbott, 1999; Rasmussen et al., 2012)を支持するものである。

著者関連情報
© 2023 日本地球化学会
前の記事 次の記事
feedback
Top