主催: 日本地球化学会年会要旨集
会議名: 2024年度日本地球化学会第71回年会講演要旨集
回次: 71
開催日: 2024/09/18 - 2024/09/20
p. 264-
海洋プレートのほとんどは中央海嶺で形成されるが、その一部は海洋プレートの沈み込み開始に伴う拡大 (Ishizuka et al., 2020)、背弧拡大(Martinez et al., 2007)で形成されるため、海洋プレートの物理・化学特性は多様である。 拡大軸では、基本的にマントルの部分溶融、メルト輸送・反応、結晶分化などのプロセスを通して海洋プレートを構成する地殻・リソスフェリックマントルが形成される (Warren, 2016)。それぞれの拡大軸で形成された火山岩の研究から沈み込むスラブ起源流体の影響などによって、マントルの溶融条件・酸化還元状態は拡大軸毎に若干異なることが示唆されている(Cottrell et al., 2021)。したがって、海洋プレートの多様性の理解には拡大軸マントルの組成の多様性を明らかにする事が重要である。さらに、拡大軸マントルの組成情報はオフィオライトの形成過程を議論する上でも重要である。本研究では、拡大軸マントルの組成の多様性とオフィオライトの形成過程の制約を目的に、中央海嶺・背弧海盆・オフィオライトのマントルセクションから得られたかんらん岩中の鉱物化学組成の比較を行う。部分溶融度の指標となるスピネルのCr#と単斜輝石中の微量元素組成において、オフィオライト・背弧海盆かんらん岩の組成のほとんどは中央海嶺かんらん岩の組成幅内であることが示された。しかし、オマーンオフィオライトやカリブ海周辺のオフィオライトの一部の試料には、 中央海嶺かんらん岩の組成よりも数%高い溶融度を経験したと考えられる枯渇した組成を示すものが確認された。中央海嶺かんらん岩中の単斜輝石のSm/Yb対数比分布は 正規分布に近い。一方で、オマーンオフィオライトのかんらん岩中の単斜輝石のSm/Yb対数比分布は肥沃な組成と枯渇した組成のバイモーダルな分布を示す。サンプリングバイアスの可能性は否定できないが、オマーンオフィオライトの肥沃なかんらん岩と枯渇したかんらん岩の存在は2つの異なる溶融プロセスを経験していることが考えられる。酸化還元状態、流体の指標となる単斜輝石のTi/V比、Sr/Ti比には、火山岩で見られるような違い(Shervais, 2022)が中央海嶺・背弧海盆・オフィオライトのかんらん岩には見られなかった。背弧拡大や沈み込み初期の拡大軸のマントルは沈み込むスラブ起源流体の影響によって酸化的になることが期待されるものの、マントル物質であるかんらん岩自体の記録には違いが見られないことは拡大軸マントルの酸化還元状態には大きな違いがない可能性が示唆される。