立山・室堂周辺で採取された着色表層雪試料では、未ろ過状態で冷蔵保存している間にpHが大幅に低下し(pHが5から3程度に)、硫酸イオン濃度が大きく増加する現象がみられた。一方で、ろ過した試料についてはpHの低下(硫酸イオン濃度の増加)はみとめられなかった。試料をろ過したフィルターについて、SEM・EDXで観察、元素分析を行ったところ非水溶性の硫黄が有意に存在していることが確認され、室堂近郊に存在する弥陀ヶ原火山の噴気孔である地獄谷由来によるものと考えられた。未ろ過で冷蔵保存中に硫黄酸化細菌による(未酸化状態の硫黄成分からの)硫酸生成が起こっていた可能性が考えられる。なお、他地域で採取された着色雪試料については、冷蔵保存中の大幅な硫酸イオン濃度増加やpHの低下は認められず、保存中の硫酸生成は室堂周辺など火山噴気の影響を受けやすい地域に限られた現象であると考えられる。表層雪試料(未ろ過)中の水銀濃度は通常の降水や4月の室堂平の積雪中の濃度よりも2桁以上高く、硫黄などと同様に、火山由来の非水溶性の粒子状水銀も融雪期の表層雪中に大きく濃縮しているものと考えられる