抄録
天草下島西端に露出する高浜変成岩類は岩体の北部,東部,南部を上部白亜系姫浦層群に覆われている.高浜変成岩類と姫浦層群は低角な正断層によって接している.高浜変成岩類は結晶片岩類からなる下部ユニットと,緑れん石角閃岩,ざくろ石角閃岩およびざくろ石-雲母片麻岩からなる上部ユニットの2つの構造単元に区分できる.両ユニットの境界は,低角のスラストまたは延性剪断帯であると推定される.すなわち上部ユニットは下位を結晶片岩類に,上位を非変成の姫浦層群によって挟まれた低角なシート状構造をなしている.高浜変成岩類の変形過程は6つの時相に区分できる.最も著しい延性剪断変形を被ったと考えられるD2時相の剪断センスの解析から,高浜変成岩類が北ないし北東方向に上昇したことが示唆される.本研究の結果および九州の変成岩類に関する既報を総合すると,高浜変成岩類は三波川変成帯に帰属する説が最も支持される.