抄録
棚倉破砕帯の断層ガウジの分布様式と微細組織の詳細を明らかにし,脆性領域における運動像と古応力の変遷を議論した.断層ガウジの微細組織から,脆性破壊の特徴をもった粒径分布と,延性変形の特徴をもったフラグメントの定向配列という2つが認められた.断層ガウジの姿勢と剪断センスを用いて多重逆解法による古応力解析を行い,棚倉破砕帯の左横ずれ運動(D1)と右横ずれ運動(D2)という2つの変形ステージが得られた.古第三紀に断層ガウジは左横ずれ運動に伴う基本構造を形成し,破砕帯の上昇とともに活動を繰り返して,17 Maには左横ずれ運動(D1)を経験し,15 Maには右横ずれ運動(D2)へと運動方向の変換を経験したことが明らかとなった.このことから,関東山地から東北日本前弧域の南西部で知られていた17~15 Maにおける応力場の変遷は,棚倉破砕帯を含むような規模であったと考えられる.