抄録
岡山県西部の北部大賀台長屋の沢は,全長約1200 mに及び,大規模にトゥファが発達する.ここでは,石灰岩とその下位の砂岩頁岩相の低角スラスト境界から湧出した水が,長く急傾斜の流路沿いを流れる間にトゥファを堆積させている.湧水の水質の時期的変化は,これまで他地域で記載されてきた変化と類似する.ただし,夏期に溶存Ca2+濃度が低く,水温の季節的変化幅が大きいという特徴があり,これらは長屋の地下水塊が小さいことを示唆する.長屋の沢のトゥファには夏~秋の緻密層と冬~春の孔隙質層による,明瞭かつ規則的な年縞が発達する.孔隙質層中にはシアノバクテリアや珪藻が豊富に認められるが,緻密層には,径の大きな方解石結晶が発達し,微生物の痕跡は少ない.堆積物の組織的変化は,水質から計算された方解石沈殿速度のデータと矛盾し,むしろ降水や農業用水の流入を反映した水量の激変に関係すると考えられる.