2009 年 115 巻 9 号 p. 488-500
1999年に起きた台湾集集(Chi-Chi)地震(Mw7.6)を引き起こしたチェルンプ断層は,その南部と北部では,地震時に生じた断層の挙動に明瞭な違いが認められた.この挙動の違いは,地震時の断層の強度を減少させる“場”の違いや,強度低下を引き起こす機構の違いに起因すると考えられ,これらを明らかにする目的で,2003年に地震断層を貫く台湾チェルンプ断層掘削計画(TCDP)が開始された.その結果,Hole A(掘削深度2000 m)およびHole B(同1350 m)より,孔内検層と併せ地震断層を貫くコア試料が採取され,これまでに種々の面から分析が行なわれた.本総説では,この断層の動的強度低下機構と地震直後の断層のヒーリング過程を知る上で重要な断層帯内部の物理・化学的環境変化についてのコア試料の物性計測や化学分析等の研究成果についてレビューし,その結果を踏まえ現段階で考えられる作業仮説について論述した.