地質学雑誌
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115 巻, 9 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
論説
  • 小原 一成
    2009 年115 巻9 号 p. 437-447
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/10
    ジャーナル フリー
    近年の高密度地震観測網整備に伴い,南海トラフから西南日本に沈み込むフィリピン海プレートの境界付近で,様々なスロー地震が検出されている.巨大地震発生域の深部では,数日間継続するプレート境界固着すべりとしての短期的スロースリップイベント,周期20秒に卓越する深部超低周波地震,2 Hzに卓越する深部低周波微動が,全長約600 kmの帯状領域に沿って複数のセグメントに分かれ,半年あるいは3ヶ月など周期的に発生する.また,南海トラフ陸側の付加体内部では周期約10秒に卓越する浅部超低周波地震が発生している.これらのスロー地震は,浅部では付加体変形過程,深部では沈み込むフィリピン海プレートの海洋地殻あるいは付加体堆積物での脱水分解反応や変成作用と関わっている可能性があり,プレート沈み込み帯における地質体形成や流体循環の現場を反映するものとして注目される.
  • 川田 祐介, 長濱 裕幸, 内田 直希, 松澤 暢
    2009 年115 巻9 号 p. 448-456
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/10
    ジャーナル フリー
    プレート境界地震に伴う余効すべりの時間変化を岩石の粘弾性構成則に基づいて検討した.本構成則は内部状態変数を用いた非平衡熱力学から導出され,緩和弾性率(応力と歪の比)が時間のべき乗に従って減衰する構成式で表される.この時間のべき乗則は,岩石中の各内部状態が様々なスケールの緩和時間を持つときに,各内部状態の集団的なダイナミクスとして現れるものである.この構成則を用いて,岩石の定常クリープ挙動のみならず,急激な歪速度変化に対する遷移応答も表現できる.東北日本沈み込み帯のプレート境界における小繰り返し地震のモーメントから見積もられた余効すべり変化は時間のべき乗則に従う.粘弾性構成則に基づいて解釈すると,このことは,様々な規模の地震に伴って岩石が示す遷移挙動の重ねあわせが「余効すべり」として観測されているということを示唆している.
  • 大坪 誠, 重松 紀生, 北川 有一, 小泉 尚嗣
    2009 年115 巻9 号 p. 457-469
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/10
    ジャーナル フリー
    熊野酸性岩類北岩体の北端に近い海山観測点と南端に近い井内浦観測点の2箇所からのボーリングコアを解析し,南海トラフ沈み込み帯前弧域の応力場変遷を調べた.過去の応力はコアを切る断層面から取得したスリップデータに多重逆解法を適用し,現在の応力場はボアホールブレイクアウトから推定した.多重逆解法から,海山観測点と井内浦観測点ともE-W方向の圧縮→NE-SW方向の伸張→N-S方向の圧縮という類似の応力履歴を持っていることが分かった.他方,現在の最大水平圧縮応力(σhmax)は,北側の海山観測点ではE-W方向で,多重逆解法による最終ステージσhmaxとほぼ直交するのに対し,南側の井内浦観測点での現在のσhmaxはNNE-SSW方向で,多重逆解法による最終ステージのものと大きな変化がない.本研究の結果は,西南日本に特徴的なE-W方向の圧縮応力場と,フィリピン海プレートからの圧縮によると考えられるN-S方向の圧縮応力場との境界が,時間とともに南下していることを示す.
  • 宮田 雄一郎, 三宅 邦彦, 田中 和広
    2009 年115 巻9 号 p. 470-482
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/10
    ジャーナル フリー
    田辺層群白浜累層には下位から円筒,ドーム,シル,岩脈という異なる形態の貫入岩体が見られる.市江地域の円筒状岩体は,直径数10 mで母岩をほぼ垂直に貫く.直径約150 mでドーム状の市江崎岩体は,母岩の成層構造をほとんど乱すことなく母岩のブロックや粒子を多量に取り込んでいる.岩体を中心に,放射状の泥脈・砂脈が母岩を貫く.見草岩体は長径200 mあまりのラコリス状で,その上位はシル・岩脈に富む.実験によると,粘性の低い流体が成層不良の地層中に貫入する場合は,集中した流体の鉛直上昇が円筒状通路を,粘性が高い場合はマッドチャンバーを形成した.上載圧が低く不透水層を挟む地層には段階的に貫入して,シル・ラコリス・泥脈群をつくった.田辺層群のダイアピルは白浜累層堆積時に貫入し,一部は海底面上に噴出した.初生的な流体は下位の朝来累層中に封じ込めらた泥水で,貫入過程で粗粒物質を取り込みながら岩相を変化させた.
報告
総説
  • 徐 垣, 谷川 亘, 廣瀬 丈洋, 林 為人, 谷水 雅治, 石川 剛志, 廣野 哲朗, 中村 教博, 三島 稔明, En-Chao Yeh ...
    2009 年115 巻9 号 p. 488-500
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/10
    ジャーナル フリー
    1999年に起きた台湾集集(Chi-Chi)地震(Mw7.6)を引き起こしたチェルンプ断層は,その南部と北部では,地震時に生じた断層の挙動に明瞭な違いが認められた.この挙動の違いは,地震時の断層の強度を減少させる“場”の違いや,強度低下を引き起こす機構の違いに起因すると考えられ,これらを明らかにする目的で,2003年に地震断層を貫く台湾チェルンプ断層掘削計画(TCDP)が開始された.その結果,Hole A(掘削深度2000 m)およびHole B(同1350 m)より,孔内検層と併せ地震断層を貫くコア試料が採取され,これまでに種々の面から分析が行なわれた.本総説では,この断層の動的強度低下機構と地震直後の断層のヒーリング過程を知る上で重要な断層帯内部の物理・化学的環境変化についてのコア試料の物性計測や化学分析等の研究成果についてレビューし,その結果を踏まえ現段階で考えられる作業仮説について論述した.
口絵
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