抄録
中川開析谷の沖積層には泥質な海成層が厚く分布する.この海成層は完新世中期の海水準高頂期以降の奥東京湾奥から湾口にかけたデルタの前進によって形成されたと考えられてきた.開析谷を横断する3本のボーリングコア堆積物の堆積相と放射性炭素年代値を検討したところ,中川開析谷における沖積層の埋積過程は,ステージ I(~10 cal kyr BP):蛇行河川性堆積物の累重(aggradation),ステージ II(6~10 cal kyr BP):エスチュアリー性堆積物の開析谷中軸において厚く,開析谷縁辺において薄い累重,ステージ III(0~6 cal kyr BP):デルタ性堆積物の湾奥から湾口,開析谷の西縁から東縁にかけた前進(progradation),に分けられることが明らかになった.ステージIIからIIIにかけて開析谷中軸では潮流が強く影響し,デルタ性堆積物の西縁から東縁にかけた堆積もこれに起因すると考えられる.