抄録
最終氷期最盛期(LGM; 21±3 ka)前後の日本海の表層環境(信頼できる水温と塩分)はまだ明らかになっていない.これまでに行われた4種類の微化石(珪藻・浮遊性有孔虫・放散虫・石化質ナノ化石)群集による解析によって,LGMの表層水温(SST)は現在より低かったと推定され,反対にアルケノンによって2〜3 °C高かったと見積もられている.また,LGMの表層塩分(SSS)は現在の34に対して,16〜30であったと見積もられている.本研究では,日本海南部から採取された4本の海底コアに含まれる浮遊性有功孔虫の1種(Neogloboquardrina pachyderma)の左巻き個体の産出頻度を,日本海北部の表層堆積物中のそれと比較することにより,LGMにおける日本海南部の水温と塩分を見積もった.その結果,日本海南部(36〜37 °N)の表層水塊は,現在の日本海北部(46〜48 °N)のそれに相当し,5月のSSTでみると現在の15〜16 °Cから3〜6 °Cまで低下していたことが明らかになった.また,数本の海底コア中の浮遊性有孔虫殻の酸素同位体比から推測されるLGMのSSSは26〜29の範囲にあったと見積もられた.LGMにおけるこのような低温・低塩分の表層環境は,日本海南部から採られた海底コア中の珪藻群集解析からも支持された.