抄録
2011年東北地方太平洋沖地震では,海溝寄りの非常に大きな滑りに加え,宮城〜茨城県沖の陸側に近い領域でも比較的大きな滑りがあったと考えられる.特に,地震開始後20−35秒くらいには,1978年宮城県沖地震の震源域付近で顕著なモーメント解放を生じた.地震の主破壊は,長大な滑り(最大50 m),長い滑り時間(最大90秒),比較的大きな応力降下(約10 MPa)で特徴付けられ,thermal pressurizationなどの効果により断層面の摩擦強度が極端に低下したことが強く示唆される.余震のメカニズム解が地震前と大きく変化したことも,沈み込むプレート境界面でほぼ全ての歪みが解放されたことを意味し,摩擦強度の極端な低下を裏付ける.地震前の絶対応力レベルは,震源付近から海溝にかけて約10 MPaと推定された.大地震時の破壊伝播は,thermal pressurizationなど非線形性の強い効果に支配されていると考えられ,海溝型大地震の擬周期的発生と調和的である.