2012 年 118 巻 7 号 p. 419-430
2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震により,岩手・宮城・福島県沿岸部を中心に甚大な津波被害が発生し,震災域は津波堆積物により広く被覆された.ヒ素のリスクを評価するために,岩手県久慈市から福島県南相馬市にかけて137個の津波堆積物を採取し,全堆積物化学組成の分析,水および海水溶出試験を行った.また,水溶出液に対して3 kDa以下,3 kDa−0.2 μm,0.2 μm−0.45 μm,および0.45 μm以上の4つに分液し,ヒ素の化学形態について評価した.45試料においてヒ素の水溶出量は土壌環境基準値(10 μg/l)を超過した.特に,気仙沼市大谷地域においては,水溶出量が土壌環境基準値の39倍と極めて高く,ここに分布する金鉱山の影響を強く受けていると考えられる.溶出液中のヒ素の約70%は3 kDa以下であり,溶出液中のヒ素は微細なコロイドおよび溶存態として含まれていることを示している.