抄録
徳島県北部島田島に分布する上部白亜系和泉層群板東谷層において,層序,岩相の時空分布,地質構造,そして堆積環境を詳細に検討した.ここの板東谷層は厚さ10 m程度のチャネル充填堆積物とチャネル間堆積物が繰り返し累重することから,海底扇状地のフロンタルスプレーの堆積物であると解釈される.また,海底扇状地システムの西方への前進・移動を反映したと考えられる上方粗粒化の大傾向が,本層全体を通じて認められる.島田島に分布する板東谷層は生痕化石Archaeozosteraを多産するが,その産出層準は泥岩の占める割合が比較的高い最下部の層準に限られる.この事実は,Archaeozosteraの形成者が,混濁流による物理的撹乱の影響が少なく,安定した海底環境が相対的に長い期間持続する場所に限って生息したためと考えられる.