抄録
北アルプス北部,鹿島槍ヶ岳から爺ヶ岳,蓮華岳一帯には,第四紀前期更新世の火山-深成コンプレックスの断面が広く露出している.この一帯では火山活動と花崗岩マグマの上昇定置の直後にあたる1.6-0.6Maの間に傾動を伴う隆起が生じており,爺ヶ岳火山岩類と黒部川花崗岩が80°前後の直立に近い状態まで南北水平軸回転している.この巡検では,北アルプス稜線の爺ヶ岳南峰と中央峰の間においてほぼ直立した湖成堆積物や溶結凝灰岩層を観察するほか,爺ヶ岳火山岩層中に貫入した黒部川花崗岩の接触境界,黒部川花崗岩中に多量に含まれる暗色苦鉄質包有岩を観察する.さらにカルデラ外に流走したアウトフロー堆積物である大峰火砕流堆積物を大峰山地において観察する.
大峰火砕流堆積物は東に40°前後傾斜している.北アルプスの隆起に引き続き,中期更新世以降に松本盆地東縁断層に沿った衝上運動が生じ,大峰帯の傾動隆起を引き起こした.北アルプスも大峰帯も第四紀以降の北部フォッサマグナと北アルプス一帯を支配した短縮テクトニクス場での構造運動により生じている.なお2.2-0.8MaのジルコンU-Pb年代値が報告された第四紀黒部川花崗岩が,定置直後の傾動隆起によりどのような熱年代学的応答をしたのかについても解説を行う.