2021 年 127 巻 12 号 p. 709-725
西南日本の古前弧海盆では多数の砕屑岩脈が貫入しており,その方位分布は貫入当時の広域的な造構応力の推定に利用できる.しかし泥ダイアピルのような流体供給源の付近では,母岩が圧縮を受けることで局所的かつ一時的に応力状態が変化する.そこで本研究は,流体供給源付近で局所応力と広域応力を峻別して検出することを目的とする.中新統田辺層群において泥ダイアピル付近に貫入した845枚の泥岩岩脈の方位を解析したところ,3種類の応力が検出された.このうち西北西-東南東引張の正断層型応力は,調査地域を7つの区画に分割しても検出されることから,調査地域全体に作用した広域応力だったと考えられる.西南日本前弧域南縁の各地で推定されている中期中新世初頭の古応力と比較すると,最大水平圧縮応力方向は広く南北であり,応力の型は時間的あるいは空間的に多様だったと考えられる.