2021 年 127 巻 5 号 p. 269-291
地球表面に露出しているかんらん岩は,過去においてマントルに存在していた物質であり,マントル物質の化石である.かんらん岩が経験した圧力-温度-変形史(P-T-d-t経路)を復元することができれば,どのようにマントルが地球内部で運動し,それに伴いどのように温度変化と変形が進行したのかを明らかにすることができる.そのP-T-d-t経路を,かんらん岩の地表への上昇による“化石化”の時点から連続的かつできるだけ過去に遡ることができれば,長期間にわたるマントルダイナミクスの理解を深めることができる.日高変成帯南部に位置する幌満かんらん岩体では,かんらん岩に記録された過去のP-T-d-t経路を詳細に読み解く研究が盛んに行われてきた.本稿では,幌満かんらん岩体のP-T-d-t経路の研究に焦点をあてレビューを行い,定置に至るまでの最終上昇時からできるだけ過去に遡って幌満かんらん岩体が辿った運動・熱・変形史を整理・概観し,新たな提案をする.