2021 年 127 巻 5 号 p. 253-267
長野県裾花ダム付近の凝灰岩の露頭では,表面析出物が見出され,アルノーゲン(Alunogen, Al2(SO4)3・17H2O),瀉利塩(Epsomite, MgSO4・7H2O),石膏(Gypsum, CaSO4・2H2O),苦土六水石(MgSO4・6H2O),苦土明礬(Pickeringite, MgAl2(SO4)4・22H2O),タマルガル石(Tamarugite, NaAl(SO4)2・6H2O)が同定された.熱力学的相図の解析では,瀉利塩と石膏は低から高pH環境で生成されるが,アルノーゲンと苦土明礬は強酸性環境で生成が示唆される.母岩構成鉱物と平衡条件下での蒸発を仮定したモデル計算を行った結果,酸化して形成された硫酸は造岩鉱物中に含まれる陽イオンとの中和反応が進行し,硫酸塩鉱物を生成し,pHを一定に保つ.石膏と瀉利塩は必ずしも酸性環境での形成ではなく,アルノーゲンは母岩の構成鉱物との平衡条件下では生成されない.母岩の構成鉱物との平衡ではない条件下で計算すると,SO4/Al比が1.5から4.7において,1010倍程度以上の蒸発濃縮が進むとアルノーゲンが生成される.表面析出物の鉱物種は,母岩である凝灰岩中の造岩鉱物の溶脱ステージと対応している.