2022 年 128 巻 1 号 p. 265-280
房総半島には下部~中部更新統の前弧海盆堆積物である上総層群が広く露出する.房総半島の上総層群では,前弧テクトニクスの連続的な記録媒体である前弧海盆の地質断面を陸上で直接観察でき,同時間面であるテフラ鍵層や微化石などの第四紀の高精度な層序学的手法を適用できる世界的にも珍しい条件が揃っている.最近,房総半島東部の5万分の1地質図幅の刊行をはじめ,上総層群の断層や大規模な海底地すべり堆積物の分布およびそれらの発達過程に関する研究の進展があり,上総層群の発達史を時系列で復元する条件が整いつつある.本巡検では房総半島東部に露出する上総層群下部に発達する露頭規模で観察が可能な断層と海底地すべり堆積物の主要な露頭を見学しながら前弧テクトニクスと堆積作用に関する研究の現状を紹介する.