2023 年 129 巻 1 号 p. 35-44
御坂・巨摩山地に分布する御坂層群,西八代層群および櫛形山層群中の黒鉱鉱床は宝-笹子,万福-富里,茂倉-三里,御座石という4つの鉱床クラスターを形成しており,いずれも15〜13 Maに古伊豆弧上で海底熱水鉱床として生成した.最も調査が進んでいる西八代層群の層序でいえば,下限不明の古関川層の玄武岩溶岩/火砕岩類の直上に胚胎し,常葉層勝坂泥岩部層に整合的に覆われている.4つの鉱床クラスターは,藤野木-愛川構造線,糸魚川-静岡構造線,および一部逆転した褶曲帯が集中して見られる三沢川断層から距離にして1 km以内の場所に,それらとほぼ並行して線状に分布するという特徴を示している.
現在の伊豆・小笠原弧に見られる海底熱水鉱床は海底火山の火山中心に限定されるので,上記の黒鉱鉱床クラスターの産状は,古伊豆弧の海底火山体が海底熱水鉱床を載せたまま下位の島弧地殻から剥ぎ取られて,衝突境界ないし変形が集中した場所付近に折り重なるように集積したと考えるのが妥当である.本巡検では,黒鉱鉱床の産状を基に,南部フォッサマグナの伊豆衝突帯の衝突メカニズムについて新たな見方を提供し,参加者の議論に供したい.