地質学雑誌
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総説
暁新世-始新世温暖化極大の海洋酸性化
山口 龍彦 久保田 好美木元 克典
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2023 年 129 巻 1 号 p. 179-197

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抄録

人為的な二酸化炭素排出に伴う,海水のpH低下(海洋酸性化)は炭酸塩骨格を持つ生物の成長や生存を阻害し,海洋生態系を著しく変えることが懸念されている.長期的な海水のpHは難しい.地質時代には長期的な海洋酸性化が起きたことが報告されている.本論は暁新世-始新世温暖化極大(PETM)の海洋酸性化の最新の研究成果をまとめ,解決すべき課題を指摘した.PETMには浮遊性有孔虫殻のホウ素同位体比(δ11B)の分析より海洋表層のpHが暁新世末よりも0.2-0.5低下した.pHの推定値には,δ11Bの測定誤差や計算上の仮定による不確定性がある.二酸化炭素の増加量や海洋循環など海洋酸性化に関連する海洋環境は十分に解明されていない.今後,多角的なアプローチに基づく,より正確なpHおよび海洋環境の復元が望まれる.

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© 2023 日本地質学会
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