2025 年 131 巻 1 号 p. 45-58
日本の沿岸低地の多くは最終氷期以降に堆積した沖積層で覆われている.集水域が小さい小規模な開析谷は,上流からの堆積物供給量が少ないために特徴的な堆積環境と物性の沖積層が堆積する.このような沖積層の堆積相および物性を調べることを目的に,埼玉県の芝川低地で2本のボーリング調査(GS-SUM-1, GS-SMS-1)を行った.芝川低地の最終氷期以降の堆積環境は,9 ka以降に海水が入り内湾化し,6 ka頃内湾がもっとも拡大し,4 kaには淡水の湿地環境となったことがわかった.内湾の堆積物は砂分をほとんど含まない泥を主体とし,100 m/s前後と遅いS波速度を示した.堆積物供給が少ないことに加え,内湾が拡大した頃に谷の出口が閉塞されていたために,泥質で軟弱な堆積物が形成されたと考えられる.台地の開析谷の下流部には,このような軟弱な沖積層が存在する可能性が高く,地盤強度の面から注意が必要である.