地質学雑誌
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志摩半島の下部白亜系松尾層群から恐竜化石
三重県大型化石発掘調査団
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1997 年 103 巻 2 号 p. IX-X

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抄録

松尾層群は, 志摩半島東部の秩父累帯中帯にあって, 中帯の主体をなすジュラ紀付加体青峰層群を傾斜不整合で覆う前弧海盆堆積物とされている. 本層群は以前から汽水生の前期白亜紀貝化石を多産する地質体として, 広く知られていた(山際, 1955, 1957; 山際・坂, 1967).
このたび, 標記調査団の一員である金子, 高田, 谷本, 藤本が本層群から大型恐竜の骨格の一部である脛骨の化石を発見した. その連絡を受けた三重県教育委員会は亀井および山際に調査を依頼し, その結果, 発掘調査団が組織された. 調査団は, 関係当局の協力を得て, 1996年9月6日から23日まで発掘・調査を行った. 詳細は, 化石の発掘, 剖出および古生物学的な記載の完了を待って報告される予定であるが, ここに発掘の概要を速報する.
化石を含む地層は, 鳥羽市安楽島の秩父累帯中帯で, 蛇紋岩を伴う断層を介して青峰層群とくり返し帯をなして分布する松尾層群の分布域の1つ(坂ほか, 1988の加茂帯)に属している. 化石は, 北方に面した海崖をなす泥質岩卓越相中の, 厚さ約50cm, 走向E―W, 傾斜90°の泥岩層に密集して含まれている. 折から来日中の中国科学院董枝明博士をまじえた発掘開始前の調査では, 西から東に向かって, 脛骨, 上腕骨, 肩甲骨, 大腿骨と同定される骨化石が発見された(発掘後, 脛骨を包むマトリックスから腓骨が剖出された). これらの骨化石は, その産状や位置関係から本来の部位関係をほぼ保っているとみなされ, 1個体の恐竜遺体が汀線付近から沖合に運ばれて水底に沈み, そのまま埋没するか, あるいは, 軟体部の腐乱後, その躯体骨がほとんど乱されることなく埋没したものと判断される. したがって, その西側に頭骨が存在していた可能性がある. ただ, 露頭面が埋没した恐竜骨格のほぼ正中面に当たると思われ, 侵食によって頭骨部分はすでに失われた可能性が大きいと推定される. 運搬営力としては, 化石を含む泥岩層の上・下位層中にストーム起源を示唆する堆積構造が卓越していることから, ストーム時の沖合に向かう流れが考えられる.
これまでに確認された骨化石と地層中におけるその産状から判断すると, 体長22m前後の竜脚類のものと考えられる.

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