抄録
関東山地三波川帯の岩相分布, 温度構造ならびに剪断センスの逆転と, 標本スケールの横臥褶曲の両翼における剪断センスの決定から, 大規模な横臥褶曲の存在を本地域に想定することはできない.剪断センスが明瞭な試料は少なく, 石英のファブリックが異なるセンスを示すドメイン構造が同じ薄片内で認められる.また, 再結晶石英粒子の準三次元形態ならびにc軸ファブリック解析結果などから, 三波川帯全体としては上盤西方の延性剪断変形が卓越しているものの, 変形はZ軸方向に加えてY軸方向の短縮に伴って, X軸方向の一軸伸長変形が卓越していることが明らかにされた.剪断センスの逆転は, 海洋プレートの斜め沈み込み場において不均一に剪断変形が分配されて, 逆の速度勾配が生じたことによるものと考えられる.鉱物の伸長線構造は一貫して西北西-東南東方向であり, 三波川帯の上昇モデルとして, 押し出しモデルを支持する傾斜移動剪断運動の証拠は認められない.