抄録
北アルプス南部の焼岳火山近傍に分布する峠沢テフラ群(Ykd-T)の層序学的研究とテフラ直下の腐植土の14C年代に基づいて最近約3000年間の噴火史を編年した.このテフラ群は11枚のテフラからなり, そのほとんどが変質した粘土質火山灰層である.それらの中に中尾火砕流堆積物(約2300 cal BP)に対比されるガラス質火山灰層も認められ, これを境として上部(Ykd-Tl)と下部(Ykd-Tu)のサブグループに分けられる.最近3000年間の焼岳火山では, 地質調査により認識された1×106 m3以上の水蒸気噴火が3~10回/ky, マグマ噴火は数千年に一回の頻度でおこっており, この火山の属する乗鞍火山帯で最も活動的な火山といえる.また, 14C年代の暦年代への較正と層位から, Ykd-Tu2は685年の噴火記録に対応する可能性が高く, Ykd-Tu7は1746年の噴火記録に対応する可能性があり, Ykd-Tu8は1907~1939年の噴火記録に対応する.