抄録
飛騨山地南部を北西-南東方向に走る境峠断層の第四紀後期における活動を,変動地形と活断層露頭の観察をとおして明らかにした.断層にそって屈曲した中~後期更新世の段丘面を開析する流路からは,数100m規模の左横ずれ変位を見積もることができる.また,断層はこれらの段丘面に数10mオーダーの垂直変位を与えている.断層面に沿って基盤岩中に発達する脆性断層岩の非対称変形組織は,この断層が左横ずれ成分が卓越した断層であることを示唆している.以上から,境峠断層は後期更新世以降に数mm/年の平均変位速度を持って活動してきた左横ずれ断層であることが示唆される.断層で変位した堆積物の14C年代測定によって,この断層の最新活動は1400±40y.B.P. 以降であり,西暦762年あるいは841年の地震のどちらかと関係していることが明らかとなった.