抄録
イタヤガイ類卓越貝化石群集が常磐地域高萩地区の中部中新統上部多賀層群下手綱層から初めて報告される.珪藻化石分析により,本群集の産出層準はYanagisawa and Akiba(1998)のDenticulopsis praedimorpha帯(NPD 5B)の上部に相当し,推定年代は約12.0-11.5Maである.本群集は岩相,属構成,および化石の産状から浅海砂礫底の同相的群集と考えられる.本群集中のイタヤガイ類の種・亜種構成は東北本州中部に知られる同時代の浅海砂礫底群集中のそれとは前期中新世最後期~中期中新世初期の門ノ沢動物群の遺存的要素をより多く含み,また中期中新世中期~後期中新世前期の古期塩原-耶麻動物群の特徴的要素をあまり含んでいない点で異なる.この違いは中期中新世後期の気候寒冷化によって東北本州太平洋側の海洋表層水に顕著な緯度的温度勾配が生じた結果かもしれない.