日本地質学会学術大会講演要旨
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第128学術大会(2021名古屋オンライン)
セッションID: T3-O-3
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T3(口頭)スロー地震に関する地質学的・実験的・地震学的研究の連携と進展
紀伊半島沖南海トラフ浅部デコルマ地形に応じた応力・物性分布と浅部超低周波地震との空間的関係
*橋本 善孝佐藤 茂行口元 晴貴木村 学木下 正高宮川 歩夢ムーア グレゴリー中野 優白石 和也山田 泰広
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抄録

紀伊半島沖南海トラフ浅部デコルマ地形に応じた応力・物性分布と超低周波地震との空間的関係 浅部スロー地震の分布は、その発生場が基盤の地形の影響を強く受けていることを示唆している(Bell et al.,2014 Yamashita et al., 2015)。その原因として、地形による応力場の改変あるいは物性・流体圧の不均質分布の影響が提案されている(Sun et al., 2020, Barnes et al.,2020)。これまで流体圧の影響を支持する根拠が多く出されている一方、応力場の改変についてはアナログ実験や数値モデルにとどまっており、天然から根拠が示されたことはない。また、応力場と物性・流体圧の相互関係についても天然から示されたことはない。そこで本研究では、沈み込み帯浅部デコルマ地形による応力場の改変をスリップテンデンシー(Ts)・ダイレンションテンデンシー(Td)をマップとして示し、この応力分布とデコルマ面上の物性分布および超低周波地震の分布との相互関係を明らかにすることを目的とする。

 対象地域は紀伊半島沖南海トラフである。IODP NanTroSEIZEのトランセクトのために3次元地震反射ボックスが得られている(Moore et al., 2007)。その後、解析技術が発達したため、近年、同反射断面のデータを再解析した(Shiraishi et al., 2019)。その結果、弾性波速度分布、深度変換、ノイズ除去などの精度の上がった画像が得られた。また、同地域では、浅部超低周波地震が複数回観測されている。特に2016年4月の超低周波地震イベントでは、多くのCMT解が得られている(Nakano et al., 2018)。このように3次元地震反射断面と浅部超低周波地震が共存している地域は他にない。

 浅部デコルマ面の地形は全体的に北西へ深くなるが、海溝軸とほぼ並行な軸を持つ凹凸が複数回繰り返す。デコルマ面上の弾性波速度は全体的に北西へ増加する傾向があるが、やはり海溝軸とほぼ並行に高速度場と低速度場が複数回繰り返す。しかし、デコルマ地形との一致は見られない。CMT解の低角な節面とすべり方向を用い、小断層多重逆解法で応力を推定したところ、低角な北西南東圧縮場が得られた。複数の応力場は見られず、一つのクラスターのみだったため、得られた応力場は広域応力を示すと解釈する。デジタル化したデコルマ面を50 X 50 mのメッシュに区切り、それぞれのメッシュ面に広域応力を与え、その面上の垂直応力と剪断応力の大きさを、差応力で規格化した値として得る。この値から各メッシュ面のTsとダイレイションテンデンシーTdを計算し、デコルマ面上のその分布を表すことができる。その結果、海溝軸とほぼ並行にTsおよびTdの高い場所と低い場所が交互に繰り返す分布が見られた。同地域の堆積物の室内実験で、弾性波速度、間隙率、有効圧の関係が得られている。この関係を用いて、弾性波速度を間隙率および有効圧へ変換する。その結果、デコルマ面全体として有効圧は1500-6500kPaで、全体として深さと共に増加するがやはり海溝軸に並行な高低の分布が見られた。超低周波地震の分布を約半日から1日の時間で区切り、超低周波地震の配列分布を目視で認定した。配列分布の幅や長さにばらつきが見られるものの、ほぼ海溝軸と並行な配列分布が複数確認された。この超低周波地震の複数の配列分布はTs, Tdの高いところと一致する。他にも一部クラスター的な分布も見られたが、これは位置決定の解像度に依存する可能性がある。

 Tsは断層再活動の確率の高さを示しており、超低周波地震がTsの高いところに分布することは理解しやすい。広域応力とデコルマ地形の関係のみがこのTsの分布を決定していることから、プレート運動とデコルマ地形が第一義的な超低周波地震の原因と考えてよいかもしれない。Tdは断層の開きやすさの指標であり、流体移動をコントロールすることが期待できる。すなわち、デコルマ地形は物性にも影響を与えることが考えられる。有効圧の分布もやはりTsおよびTdの分布とほぼ並行であり、デコルマ地形による物性の改変を示唆するものと考えられる。これらの流体移動・物性改変は地形に依存した二次的な原因であるが、超低周波地震の発生を促進する可能性がある。

引用文献:Bell et al., 2014, EPSL; Yamashita et al., 2015, Science; Sun et al., 2020, Nature Geoscience; Barnes et al., 2020, Science Advance; Moore et al., 2007, Science; Shiraishi et al., 2019, G-cube; Nakano et al., 2018, Nature communications.

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© 2021 日本地質学会
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