日本地質学会学術大会講演要旨
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第128学術大会(2021名古屋オンライン)
セッションID: T3-O-4
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T3(口頭)スロー地震に関する地質学的・実験的・地震学的研究の連携と進展
南海トラフ掘削試料の摩擦特性プロファイルから推察する浅部スロー地震の発生プロセス
*片山 郁夫藤岡 里帆北村 真奈美奥田 花也廣瀬 丈洋
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抄録

南海トラフ熊野灘に位置するC0002地点では海底下3262.5mまでの掘削に成功し,現在のところ科学掘削としては世界最深の掘削深度レコードになります(Tobin et al. 2019)。この掘削プロジェクトでは,コア試料を一部区間で採取していますが,掘削時に生じる岩石破片であるカッティングスはほぼ全区間において連続的に回収されています。そこで本研究では,C0002地点の海底下980mから3150mまでの区間で回収されたカッティングスについて,ほぼ50mごとに試料を選定し摩擦試験を行うことで,付加帯内部での摩擦特性プロファイルを作成しましたのでその予察的な結果を報告させていただきます。

摩擦実験では,カッティングス試料をすりつぶし粒径が106μm以下のものを模擬断層ガウジとして用いました。摩擦試験は広島大学設置の二軸摩擦試験機を使用し,カッティングス試料が採取された原位置の有効圧(静水圧を仮定)での実験を行いました。なお,断層ガウジは0.5 mol/L NaCl溶液に浸した含水条件での摩擦特性を調べました。初期のすべり速度は3μm/sとし,摩擦係数が定常状態に達したのち,0.3-33μm/sの範囲で速度急変実験を行い,摩擦の速度依存性ならびに臨界すべり変位の解析を行いました。

定常状態の摩擦係数は,海底下1000m付近ではμ=0.5程度であるのに対し,深さとともにやや上昇し深度3000m付近ではμ=0.65程度になります。IODPデータレポートによると,深さとともにスメクタイト/イライトの量比が低下していることからも,深さによる摩擦係数の上昇は粘土鉱物種の変化に対応していると考えられます。速度依存性は,ほぼ全ての深度ですべり速度強化(a-b>0)を示し,粘土鉱物量比との相関はみられません。臨界すべり変位については,深さとともに若干減少する傾向がみられ,これは定常摩擦係数とも対応していることから,粘土鉱物種との関連性が考えられます。

これまでの予察的な解析の結果では,海底下3000m付近までいずれの深度でもすべり速度強化を示すことから,静水圧条件であれば付加帯内部は安定すべり領域であるため震源核には発展しないことが推察されます。一方で,より海溝近傍の付加帯内部では同様の物質であるにもかかわらず超低周波地震などが報告されています(e.g., Ito and Obara, 2006)。このことからも,付加体内部での浅部スロー地震の発生プロセスには,物質に加え間隙水圧の変動が効いており,付加体内部での間隙水圧のモニタリングが重要であることが示唆されます。

引用文献:

Ito and Obara (2006) Dynamic deformation of the accretionary prism excites very low frequency earthquakes. Geophys. Res. Lett. 33, doi:10.1029/2005GL025270

Tobin et al. (2019) International Ocean Discovery Program Expedition 358 Preliminary Report: NanTroSEIZE Plate Boundary Deep Riser 4: Nankai Seismogenic/Slow Slip Megathrust. IODP. doi.org/10.14379/iodp.pr.358.2019

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