日本地質学会学術大会講演要旨
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第128学術大会(2021名古屋オンライン)
セッションID: T3-O-5
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T3(口頭)スロー地震に関する地質学的・実験的・地震学的研究の連携と進展
石英物質中の断層の弱化挙動
*堤 昭人尾上 裕子三宅 亮
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抄録

スロー地震や巨大地震などの多様な地震発生の過程や断層のすべり挙動をモデル化する上で,断層摩擦強度のすべり距離,およびすべり速度依存性を明らかにすることが重要である.1990年代に, すべり速度v = 1 m/s 付近の高速条件で顕著な摩擦弱化が見られることが実験的に明らかにされ(嶋本ほか,2003),摩擦の高速すべり特性を地震発生モデルに組み込むことの重要性が認識されるようになった.近年になり,石英質物質の摩擦について,より遅いすべり速度での弱化挙動が明らかにされ(e.g., Goldsby and Tullis, 2002),注目されている.さらに最近の我々の研究で,この石英高速摩擦弱化挙動が湿度の影響を受けること,また乾燥条件下ではわずか v = 10 µm/s といった低速の条件において定常摩擦係数が0.2程度まで低下する顕著な速度弱化の現れることがわかってきた(堤ほか, 2019; 尾上・堤, 2020).石英質物質が示すこのような低速すべり速度条件での特徴的な弱化挙動は,例えば日本海溝や中米海溝など,海洋性プレート上に堆積した珪質物質が持ち込まれる沈み込み帯におけるプレート境界断層の摩擦を議論する上で重要である.本研究では,人工水晶を用いた2種類の摩擦実験(一定すべり速度実験とSlide-Hold-Slide(SHS)実験)を試料近傍の相対湿度RHを制御した条件でおこない,摩擦弱化挙動に及ぼす湿度の影響の詳細を調べた.また,摩擦弱化直後の試料について,FIBを用いた断層断面切り出しを試み,TEMを用いた変形構造観察を行った.  

 試料には,直径約25 mmに整形した人工水晶を使用し,回転式中―高速摩擦試験機を用いて摩擦実験を行った.垂直応力は1.5 MPaとし,すべり速度v = 0.005-105 mm/sにおいて,試料近傍の相対湿度をRH = 0-80%の範囲で制御した.実験の結果,一定すべり速度実験における水晶の定常摩擦係数の値は,これまでに報告されていた石英岩の実験結果と同様,すべり速度に対して負の依存性を示すが,その挙動が相対湿度に依存することが明らかになった.また,SHS実験においてすべり開始直前の摩擦係数に見られる待機時間に依存した強度回復の挙動(いわゆるlog t ヒーリング)もまた,相対湿度に依存している.今回の実験で得られた各すべり速度条件における定常摩擦の値および,各待機時間における摩擦の強度回復の大きさは,相対湿度RHが20 %までの範囲において,1/ln(1/RH)に比例する関係を示す.TEMによる断層内部構造観察の結果,すべり弱化完了直後(すべり量 = 9 m,v = 105 mm/s,大気湿度)の水晶断層部には,厚さ約20 µmの断層ガウジ層が成長しており,ガウジ層の内部には,幅数100 nmの周期で非晶質細粒シリカの集合体が積層するナノスケール面構造が発達することが明らかになった.  

 以上の結果から,(1)石英物質の高速域での摩擦特性は,乾燥条件下で見られるv ≧ 10 µm/s での著しい速度弱化特性を本来の性質としており,(2)湿度条件下においては,相対湿度とすべり速度に依存して摩擦が増加する機構が働いているものと考えられる.また(3)摩擦変形はナノスケール積層構造中の各層境界に局所化している可能性がある。発表では,湿度下において非晶質シリカガウジ粒子間に形成される水架橋が,石英の摩擦強度に及ぼす影響について考察する.

参考文献:

Goldsby and Tullis, 2002, GRL 29(17) 1844 doi:10.1029/2002GL015240.

尾上・堤, 2020, JpGU-AGU Joint Meeting 2020講演要旨, SSS15-11.

嶋本ほか, 2003, 地学雑誌, 112(6) 979-999. https://doi.org/10.5026/jgeography.112.6_979.

堤ほか, 2019, 日本地質学会学術大会講演要旨, R13-O-13.

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