日本地質学会学術大会講演要旨
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第128学術大会(2021名古屋オンライン)
セッションID: T3-O-13
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T3(口頭)スロー地震に関する地質学的・実験的・地震学的研究の連携と進展
沈み込み境界プロセスを議論するためにどの蛇紋岩体が適切なのか?:西南日本,三波川帯の例
*ウォリス サイモン青矢 睦月
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抄録

沈み込み帯の地震発生領域以深で発生するスロー地震(深部ETS)は、一般にウェッジマントル分(先端部)の直下で発生する。熱モデル計算によれば、このマントル領域は低温であり、沈み込むスラブから放出されたH2Oに富む流体との反応によって強く蛇紋岩化していると考えられている。すなわち、スロー地震発生領域は蛇紋岩が直下の領域とみなせるため、蛇紋岩がスロー地震の誘発に関与している可能性が注目されてきた。その主要な課題の一例として、沈み込み帯深部流体の流速とその異方性に、蛇紋岩が及ぼす影響の究明が挙げられる。また、蛇紋岩基質を持つ剪断帯によく見られるblock-in-matrix変形構造を重視する研究もある。これらの議論を深めるためには、ウェッジマントル最浅部由来の天然試料を入手することが重要である。沈み込み型変成帯には一般に蛇紋岩が点在する。しかし、それらの蛇紋岩すべてが沈み込み帯上盤側のウェッジマントル由来とみなせるとは限らず、沈み込むプレートの一部として沈み込み帯深部まで持ち込まれた可能性もある。もし海洋プレート浅部由来であれば、蛇紋岩の特徴のほとんどは沈み込み前のプロセスに関連するものであり、スロー地震発生を含む沈み込みプロセスを議論するのには不向きである。加えてまた、蛇紋岩の変形構造を用いて沈み込みプロセスを議論する場合、変形の段階を慎重に検討することが必要である。収束プレート境界域の深さ数10kmから上昇して来た岩石は、確実に上昇時のテクトニックなプロセスも経験している。そのために、沈み込み型変成帯で見られる岩石の変形組織の多くは、上昇時に生じたものであり、沈み込みプロセスを反映していない。天然岩石試料中の変形組織物を用いて、スロー地震など、の沈み込みに関連するプロセスを議論する際には、まず変形が起きた深さを制約することが必要である。沈み込み型変成帯である三波川帯には、スラブ由来の砂質・泥質・珪質・塩基性片岩の中に、数cmから数kmスケールの蛇紋岩及び蛇紋岩への交代替作用によって生じた岩相のブロックが多数分布しているが、これらに対しては。「沈み込んだスラブ」と「ウェッジマントル」という双方の起源が提案されてきた。しかし、これらの蛇紋岩ブロックの分布を四国中央部の23×30km2(1/5万「日比原」及び「新居浜」)の範囲で注意深く記録したところ、そのすべてが高変成度部に限定されていることがわかった。これは、スラブ由来の片岩類がマントル岩と接するために、まず約30~35kmの深さまで沈み込まなければならなかったことを示唆している。すなわち、四国中央部の蛇紋岩はウェッジマントル由来であり、スラブの一部として沈み込んだものではないという、明確な地質学的証拠と読める。一方、三波川帯の大規模な蛇紋岩体(白髪山岩体)の底部には主にアンチゴライトからなる幅100m程度の剪断帯が発達する。このような剪断帯が沈み込み帯深部に実際に存在し、沈み込み帯境界に沿った流体の流動様式に強い影響を与えているとの推論が既になされている。ただし、地上で観察される蛇紋岩組織の情報を、この現世の議論に組み込むためには、地上剪断帯が過去にどの深さで形成されたかを制約する必要がある。ところが、アンチゴライトは非常に広い安定領域場を持つため、その形成温度・圧力条件を制約するのは一般に難しい。そこで、オリビンに富むマントルを単純に加水すると、アンチゴライトに加えて最大で約20vol%のbruciteが形成される点に着目する。かつてのスラブ-マントルウェッジ境界に沿ってほぼ完全なアンチゴライトの領域が形成されたとすれば、それは下方を沈み込む石英に富む岩相(砂・泥質片岩など)からの水溶シリカの添加を示唆しており、三波川帯の例はそれに該当する。また、三波川帯ではスラブ-マントルウェッジ境界から鉛直方向に約100m以上離れた場所で、蛇紋岩中にbrucite+アンチゴライト=カンラン石、という反応によって形成した変成カンラン石と残余のbruciteが見みられる。さらに、この変成カンラン石が局所的に antigorite shear zone fabric を包有して成長した組織も見られる。したがって、アンチゴライト剪断帯は変成作用のピーク(カンラン石の成長)以前に形成されたものと解釈でき、ウェッジ・マントルにおける沈み込みプロセスを議論する上で有用なものであると考えられる。他の変成帯に分布する蛇紋岩体の特徴を用いてスロー地震の発生を議論しようとする場合にも、三波川変成帯と同様な議論が必要不可欠である。

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