主催: 一般社団法人日本地質学会
会議名: 第128年学術大会(2021名古屋オンライン)
開催日: 2021/09/04 - 2021/09/06
紀伊半島四万十累帯の年代決定は今まで放散虫化石年代が主であったが,最近,砂岩中の砕屑性ジルコンのフィッショントラック年代(大平ほか,2016)やU-Pb年代(常盤ほか,2016;Tokiwa, T. et al, 2017)が報告されている.しかしながら,これらの報告は四万十累帯の白亜系および古第三系暁新統~下部始新統のもので,より新しい牟婁付加シークェンス(牟婁AS:中期始新世~前期漸新世)については報告がない.今回,牟婁AS砂岩の砕屑性ジルコンU-Pb年代を検討し,放散虫化石年代との比較を試みた。また,砂岩の重鉱物組成,ザクロ石組成についても検討した. 牟婁付加シークェンスはスラストで境された四つの構造ユニット(TU),すなわち北より,野竹・狼乢山(おおかみだわさん)・市鹿野・周参見TUに区分され,その年代は相対的に南ほど若くなる(鈴木ほか,2012). 今回,砕屑性ジルコンU-Pb年代を検討したのは野竹TU上三栖層,市鹿野TU打越層,周参見TU佐本川層の3試料で,放散虫化石の産出地点近傍にある砂岩を採取した.放散虫化石から野竹TUは中期始新世,市鹿野TUは中期始新世後半~後期始新世前半であるのに対し,周参見TUは中期始新世後半~前期漸新世前半とやや新しい付加体とされている. 砕屑性ジルコンU-Pb年代値の最若ピーク年代の加重平均は野竹TU:72.0±0.2 Ma, 市鹿野TU:36.1±1.9 Ma,周参見構造TU:59.6±1.0 Maであった.野竹TUや周参見TUの値は放散虫化石年代より明らかに古く,両者は火成活動のHiatusの影響が考えられる.一方,市鹿野TUの値は放散虫化石年代とほぼ一致し,同時代の火成岩に由来すると推定される.3試料とも,ごくわずかな古原生代ジルコン(1600-2500 Ma)を含んでいるが,その頻度は若いユニットほど,増加する.これらのジルコンの多くは円磨されていることからリサイクル粒子と考えられ,古期堆積岩や東アジア先カンブリア時代堆積岩からの供給が増加したものと推定される.砂岩中の透明重鉱物は市鹿野TUでは,自形ジルコン,円磨ジルコン,ザクロ石を主とするが,周参見TUではザクロ石を殆ど含まず,円磨ジルコンに富む.その他,電気石,チタナイト,鋭錐石,ルチルなどを伴う.ザクロ石はパイロープ成分に富むアルマンディンが多く,スペッサルティン成分に富むものは少ない.寺岡(2003)のMn-Mg-Ca 三角図では中圧型(Ia,Ig1,Ig2)が多いが,特にMgに富むIg2が多く,次に低圧型であるL型が多い. 重鉱物組成やザクロ石の化学組成から牟婁ASの後背地には,珪長質火成岩(内帯後期白亜紀火成岩),古期堆積岩(四万十帯白亜系?,秩父,美濃-丹波帯),低圧変成岩(領家帯),中圧変成岩(飛騨,黒瀬川変成帯),東アジア先カンブリア時代堆積岩,グラニュライト相変成岩,原生代片麻岩などが存在し,砕屑物を供給していたと推定される.ザクロ石で多くを占めるIg2型は市鹿野TU打越層→合川層→周参見TU小節川層と上位の層ほど多く含まれるので,この種のザクロ石の起源とされるアジア大陸先カンブリア時代グラニュライト相変成岩(寺岡,2003)からの供給が増加した可能性が示唆される.また,円磨された重鉱物(電気石,ルチル),無色や紫色円磨ジルコン(Purple zircon)の量比も牟婁ASに入って,急増する. 以上のような結果から牟婁ASの堆積時期である中期始新世以降(48 Ma~)に,古期堆積岩や東アジア先カンブリア時代岩石からの供給が増加したと推定される.牟婁付加シークェンスに多量含まれるオーソコォーツァイト礫(Tokuoka,1970;徳岡・別所,1980)もこうした増加に伴った砕屑物のひとつであろう.本研究は2019年度南紀熊野ジオパーク研究助成を受けたものである. <引用論文> 大平寛人・笠井美里・山本大輔・高須 晃(2016)島根大学地球資源学研究報告.34,67-75. 鈴木博之・中屋志津男・福田修武(2012)地団研専報,59,71-86. 寺岡易司(2003)地調月報,50,559-590. 常盤哲也・竹内 誠・志村侑亮・太田明里・山本鋼志(2016)地質雑,122,625-635. Tokiwa, T., Takeuchi, M., Shimura, Y., Shobu, K., Ota, A., Yamamoto, K. and Mori, H. (2017) Intech, Rijeka (Croatia), Ch.10,197-228. Tokuoka,T. (1970) Mem.Fac. Sci, Kyoto Univ.Ser B (Geol & Min),37,113-132. 徳岡隆夫・別所孝範(1980)地球科学, 34, 266-278.