日本地質学会学術大会講演要旨
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第129年学術大会(2022東京・早稲田)
セッションID: G2-O-1
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G2. ジェネラル-サブセッション2 第四紀地質
恵比須峠福田テフラ降灰時の近畿地方の水系接続の推定
*里口 保文
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抄録

【はじめに】  オルドバイ逆磁極帯の直上付近に挟在する恵比須峠福田(Eb-Fukuda)テフラは、中部山岳地域を噴出源として近畿〜関東〜北陸地域に広く分布することが知られている(吉川ほか,1996).本テフラ層は,複数の異なった層相と性質を持つ降灰ユニットから形成される(長橋ほか,2000)ことから,降灰時代の特徴と合わせて,多くの地点で対比が行われている.また,本テフラは,降灰後にテフラ粒子を多く含む洪水流によって,噴出源地域から遠方地域にまで運ばれた堆積ユニットをもち,その堆積による堆積盆地への影響が議論されている(Kataoka and Nakajo, 2002).このように多くの地点で記載されており,噴出源地域から洪水流によって運搬し,各地で堆積した堆積ユニットがあるテフラは,噴火当時の異なった堆積盆地を結ぶ水系の情報を保持している可能性がある.水系を明らかにすることは,古環境推定のみならず,現在の淡水生物分布の成立過程を考える上でも,さらに時代的変化を追うことによって,対象地域における構造運動を知る上で重要である.本研究では,恵比須峠福田テフラの降灰時における近畿地方の水系について検討する.

【地下情報の追加】  本テフラは,近畿地方の多くの地点で記載が行われているが,現在も堆積域である地域については,その地下に保存されている.本研究では,関西国際空港における深層ボーリングコア(KIX-18コア),旧巨椋池付近で行われた京都市による深層ボーリングコア(KD-0コア),琵琶湖南東岸における深層ボーリングコア(KRコア)について観察を行った.これらのコアはいずれも,琵琶湖博物館の堆積物資料として保管されている.これらのコアにみられるEb-Fukudaテフラ層の深度は,KIX-18コアが約-580m,KD-0コアが約-670m,KRコアが約-860mであり,それぞれの標高を考慮したとしても,琵琶湖地域のKRコアが最も深く,京都,大阪の順に浅い層準にある.

【Eb-Fukudaテフラ堆積時の水系の推定】  いずれの地点においても,本テフラ層の基底部は,降灰ユニットと考えられるユニットA1(吉川ほか,1996)が観察され静穏な堆積環境下で堆積が始まったといえる.KRコアはその上位の降灰ユニットであるユニットBがないが,他の2地点には存在し,その上位には平行葉理などの堆積構造が観察され,流れによって運搬されたと考えられる堆積ユニット(ユニットC)と推定される.これらの地点におけるユニットCは,その多くはシルトサイズ以下の粒径のテフラからなるが,KIX-18コアのみ砂サイズの軽石を含む.このことはこの周辺の大阪府貝塚市の本層のユニットCには軽石が含まれる(吉川ほか,1996)ことと整合的であり,大阪南部地域には,噴出地域を上流とする河川系がつながっていたと考えられる.一方,KD-0コアとKRコアのEb-Fukudaテフラには軽石が含まれていない.KD-0コアより北方の宇治川より北の地域は,この時期には堆積域ではなかった(京都市地域活断層調査委員会,2004)ことから,本地点には北の地域に降灰したテフラの再堆積が大部分を占めていると考えられる.KRコアは,当時には谷間の地理的位置にあり,現在の琵琶湖北部地域からの流入があったことが推定されている(増田・里口,2021).軽石が含まれないことだけでは,当時の噴出火山地域からの本流となる水系との関係を議論することはできないが,前述の条件から考えれば,KD-0およびKRコアの地点本流から外れた地域であった可能性がある.

 これらの地点に加え,これまでに記載されている本テフラ層の地点と層相から,当時の水系について議論を行う.

【文献】 Kataoka, K. and Nakajo, T., 2002, Sedimentology, 49, 319-334.;京都市地域活断層調査委員会,2004,活断層研究,24,139-156.;増田富士雄・里口保文,2021,琵琶湖博物館研究調査報告,34,95-109.;長橋良隆ほか,2000,地質学雑誌,106,51-69.;吉川周作ほか,1996,地質学雑誌,102,258-270.

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© 2022 日本地質学会
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