日本地質学会学術大会講演要旨
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第129年学術大会(2022東京・早稲田)
セッションID: G6-O-4
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G6(口頭). ジェネラル-サブセッション6 岩石・鉱物・火山
カルサイト合成実験における流体包有物の形成条件
*山内 彩華坂口 有人
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キーワード: カルサイト, 流体包有物
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抄録

【はじめに】

結晶中に流体が閉じ込められているものを流体包有物とよぶ.流体包有物は結晶の格子欠陥よりもはるかに大きな欠陥である.Roedder(1984)では流体包有物の形成モデルとして6つの案を挙げているが,現在もどのようにしてこのような欠陥が結晶成長中に形成されるのかわかっていない.

一般的な結晶合成実験では流体包有物は形成されない.早川,南部(1974)は石英とカリミョウバンの合成において極端に過飽和な条件で包有物が形成されることを確認し,過飽和度が要因のひとつではないかと指摘した.柳澤,後藤田(2011)がカルサイトの育成実験において結晶を大きくするために一度徐冷した状態から再び昇温・徐冷する2段階徐冷実験を行ったところ,オーバーグロース層中に多数の流体包有物が存在することが確認された.

本研究ではオートクレーブを用いて2段階徐冷の実験条件を変えながらカルサイトを合成し観察を行うことにより,流体包有物の形成条件を明らかにすることを目的とする.

【研究手法】

実験条件として2段階徐冷時の昇温後の高温保持時間の有無や継続時間,その時の撹拌の有無の条件を変更しながら実験を行なった.

【結果】

2段階徐冷時の高温保持時間が短い場合,および強制撹拌を行わなかった場合には流体包有物は確認できなかった.一方で2段階徐冷時の高温保持時間が十分に長く,そしてその間に強制撹拌,もしくは自然対流によって溶液を循環させた場合には流体包有物を含んだカルサイト結晶が形成された.

これらの実験の各段階でクエンチし,走査型電子顕微鏡を用いてカルサイト結晶の表面の観察を行なった.2段階目の昇温の直後までは結晶表面はフラットであったが,溶液を撹拌しつつ12時間高温保持をしたあとには様々な深さをもつ凹部がみられるようになった.このあと2段階徐冷が進むにつれて凹部をもつ結晶は少なくなった.

【議論】

流体包有物の形成には結晶表面の融解によって深い溝や凹部が生じることが必要であると考えられる.撹拌や自然対流によって結晶表面に高温の溶液が触れ続けることで表面の融解が促進される.それによって結晶表面に凹部が生じる.その後,結晶成長が進むにつれて結晶表面の凹部が起点となって起点よりもはるかに大きな空洞に成長すると考えられる.最終的に空洞が閉じられて流体が捕獲されると考えられる.

【文献】

Edwin Roedder (1984) Fluid Inclusions, 13-19

早川典久,南部正光(1974) 人工結晶中の包有物の形状 ―地質温度計としての液体包有物に関する研究(第3報)―. 日本鉱業会誌, 90, 479-485

国立大学法人高知大学. 柳澤和道・坂口有人・阪口秀. カルサイト単結晶の製造方法. WO2012/108473. 2014-7-3.

佐脇貴幸(2003) 流体包有物 ―その基礎と最近の研究動向―. 岩石鉱物科学, 32, 23-41.

Sterner, S.Michael., Bodnar, Robert.J.(1984) Synthetic fluid inclusions in natural quartz I. Compositional types synthesized and applications to experimental geochemistry. Geochimica et Cosmochimica Acta, 48, 2659-2668

柳澤和道・後藤田智美(2011) 科学研究費補助金基盤研究B 多鉱岩の弾性変形におけるカルサイト応力計の開発 分担研究「微細なカルサイト単結晶の水熱育成」 2010年度成果報告書

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